KDL BLOG
宇宙産業はすぐそこに!無人月面探査の疑似体験で人材育成を支援
民間で世界初の無人月面探査を予定している日本の企業があることをご存知ですか?東京のロボット開発会社ダイモンさんが制作する月面探査車「YAOKI」は、来年、NASAのプロジェクトで月に向かって出発します。
そんなダイモンさんでは、月面探査用ロボットの開発だけではなく、宇宙産業の活性化や人材育成にも取り組もうとされています。このたびKDLでは、YAOKIを通じて宇宙産業に貢献するため、子ども向けのイベントを企画・運営いたしました。今回は、その様子をご紹介します。
YAOKIについて
月面探査車「YAOKI」は、500g以下という小さくて軽い月面探査車です。これは、月面への輸送費は1kg1億円とも言われるなかで、大幅に輸送コストを下げることができる前代未聞のサイズです。そしてもちろん、寒暖差が200度以上ある月面の過酷な環境にも耐えられる強度・材質と、確実に走行できる構造を兼ね揃えて開発されています。
開発したのは、ダイモンの代表で元自動車エンジニアの中島紳一郎さん。10年近くかけてほぼひとりで開発したものが、SNSを通じて海外の宇宙関連企業の目にとまり、月面探査に行くことになったというのですから驚きです!
月面探査の疑似体験イベントの企画
宇宙産業の活性化や人材育成に向けた企画を考えたい、ということで今回企画したのは、子ども向けの月面探査の疑似体験イベント。狙いは二つ、将来の宇宙開発の人材発掘に貢献すること、そして、課題を探しチームで解決する・言葉や絵で伝える、などの体験を通じて子どもたちの育成をはかることです。
今回は、「宇宙関連のこと興味ある人いますかー!」と募集をかけた佐々木さんと、それに手を挙げた6名の有志メンバーでイベントを企画しました。
カリキュラムの検討
まずは、カリキュラムの検討です。何をすれば子どもたちの興味を引き出せるか、どうすれば月面探査を当事者として感じてもらえるか、などを考えながら企画しました。ペルソナを作り、オンライン会議ツールを使って、何日もかけてディスカッションしました。
「月でサッカーをする」とか、「月面の1/6重力を体験できないかな?」とか、「YAOKIを動かすプログラミングは?」「月に街を作るのに何がいるかディスカッションしてもらう?」など様々なアイデアが出ましたが、「本当に月面に行くYAOKIで、無人月面探査に近い状態を体験してもらおう!」という意見が一致し、メインの企画は「YAOKIを遠隔操作して月面探査ミッションを達成する」という内容になりました。実際の月面探査では、地球上で操作してからYAOKIが月面で動き、その映像を地球で見られるまでに数秒のタイムラグがあるのだとか。このタイムラグも再現してリアルな体験をしてもらいたい。
会場は、国立淡路青少年交流の家で1泊2日。砂浜が近いので、疑似月面にはちょうどいいロケーションです。
遠隔操作のための開発
企画したものの、当時YAOKIは赤外線で操作する仕様でした。到達距離が短く遮蔽物を超えられない赤外線では、遠隔操作するには限界があるため、Wi-Fi経由で操作できるよう改修することにしました。また、内蔵のカメラの映像をリアルタイムに投影する仕組みも必要でした。
特許技術が詰まったYAOKIを開発用に借りることはできません。エンジニアの中西さんとチェンさんで、まずはラジコンで代用しながら開発し、最後にYAOKIに実装するという荒業。在宅勤務で開発する中、一日中ラジコンを触っていて家族に白い目で見られたという話も(笑)。
コントローラーは、子どもが操作しやすいようにボタンを並べたシンプルなタブレット画面に。操作画面のデザインはデザイナーの岩崎さんが担当しました。初めてでも直感的に使えるように、と大きいボタンに分かりやすいアイコンをつけて操作方法を表現しています。
当日使う実機への実装はイベント前日でしたが、なんとかテストまで完了!ほとんどぶっつけ本番です。
カリキュラム運営の準備
当日の運営の準備も進めました。配布するしおりや説明用のスライド、必要なものの調達、人員の配置も必要です。誰が何を担当するのか、当日の引率や司会、疑似月面を作る人など急ピッチで準備を進めました。
子ども向けなので、表現をわかりやすく工夫したり漢字にルビを振ったり。学校の先生って大変だなあ。
今回はトライアルの実施だったため、社内や国立淡路青少年交流の家の関係者のお子様たち、総勢11名にご参加いただくこととなりました。
イベントの様子
ミッションは、YAOKIのカメラの映像を見ながら遠隔操作して、月面にある「水」「洞窟」「未確認生物」の3つ目標物を見つけてもらうというもの。子どもたちは2チームに分かれて作戦を練り、協力してミッションを達成してもらいます。YAOKIについたカメラの映像はみられますが、自分のYAOKIは見えません。FPSのゲームのようなイメージです。
一日目
1日目は、ミッションに向けて作戦会議です。司会進行は、PTA会長経験者でKDLでアプリ開発を一手に担う岡さん。子どもたち相手の初めてのイベントで、想定外がいっぱい。アプリ開発など普段のプロジェクトの進行で培った臨機応変さ(?)で進めていきます。
まず、実際のYAOKIを触ってもらって、大きさや操作感覚を掴んでもらいました。老若男女に人気のYAOKIですが、このサイズ感とかわいらしい見た目が大きいのだろうなと思いました。
子どもって思いもよらない使い方をしますよね。2台のYAOKIで戦ってみたり上下に重ねてみたり、山を作って乗り越えようとしたり砂に埋めてみたり。開発者の中島さんいわく、子どもたちは想定外なことをいろいろとしてくれるので、何が起こるか分からない月面探査のテスターとしてもありがたいのだとか。子どもたちに体験してもらうこと自体がモンキーテストのような感じですね。
午後からはミッションのための作戦会議です。実際の月面探査でも、バッテリが限られているので探査できるのはわずかな時間。行き当たりばったりではあっという間に時間が過ぎてしまいます。着陸したらまず何をするのかや、起こりうることへの対策も練っておかなくてはいけません。チームに分かれて議論しながら、作戦を練ってもらいました。
作戦を考えたら、発表です。気を付けるべきことや、目印になりそうなもの、こんなときはどうする、など、一生懸命説明してくれました。
月面の準備
一日目の夜。
願いは届かず雨は止まず。予定していた砂浜の代わりに、研修室を月面に見立てることになりました。大人たちみんなで、探査してもらう疑似月面づくりです。ミッションを邪魔するべく障害物をたくさん置いて、実際にYAOKIを動かしてシミュレーションします。
国立淡路青少年交流の家の方に照明などを準備いただいて、壁にはプロジェクタで、月面から見える地球を投影。YAOKIがうまく動かなかったりいろいろトラブルもあり、子どもたちが寝静まるまで準備は続き、ヘトヘトになる大人たち。仕上がりは素晴らしかったです。大人の本気を見ましたね。
二日目
いよいよミッションです。別の研修室から、昨夜作った月面のYAOKIを動かして、3つの目標物を発見してもらいます。目標物はこちら。
2チームがそれぞれのYAOKIを操作します。プロジェクタに画面を映して、ミッションスタート!姿は見えませんが、相手チームのYAOKIを画面で見ることはできます。
チームでバチバチと競争していたのですが、なんと最後には障害物を乗り越えられない片方のYAOKIを、もう一方のYAOKIが助走をつけて押し、力を合わせてミッションをやり遂げる展開に。
もう、めちゃくちゃ盛り上がりました!押し込んで障害物を乗り越えたときは、こどもも大人もガッツポーズ。両チーム、無事にミッションを達成することができました。
月面に待機していたエンジニアたちも、いろんな予想外の出来事に対応しながら頑張りました。ハプニングもありましたが、アプリが動いてほっとしました。月面にまで歓声が聞こえてきたそうです。「自分が月にいる生物で、侵略してきたYAOKIを見ている気分でした(笑)」とチェンさん。たしかに、自分が住んでいる星に、YAOKIが突然やってきたらびっくりしちゃいそう。
月面探査のあと、YAOKIにどんな機能がついていたらよいかを子どもたちに考えてもらい、ひとりずつ発表してもらいました。
吸盤がついていて壁を登れる、ジェットエンジンがついていて速く動ける、マジックハンドでつかめる、タイヤの溝の間隔を大きくする、などいろんなアイデアが出てきました。実際にYAOKIの機能開発は検討されているそうで、中島さんにアイデアに対するコメントをもらうとぐっと現実味を帯びてきて、子どもたちの表情が引き締まる感じがしました。
その他プログラム
淡路島で映像撮影制作やドローン空撮を手掛けるフィールドコムさんのご協力で、ドローンを体験させていただきました。チームごとに予め決められたルートを自動飛行させるプログラミング体験では、協力してチーム力を高めることができました。
何も言われなくても、距離を測る人・プログラムを入力する人、など役割分担して進めていくのがすごいですよね。
そのほか、中島さんによる講演、宇宙食の試食や宇宙式シャンプーなど、様々な体験を交え、盛りだくさんのイベントとなりました。
振り返りとまとめ
最後に、これまでにないYAOKIとの二日間の体験について、しっかりと体験のまとめとふりかえりをしてもらう時間を設けました。
子どもたちからの感想では、「協力して助け合えたのがよかった」「宇宙食が美味しかった」「時差があって難しかった」など、様々な感想をいただきました。子どもたちが目を輝かせて喜んでくれたこと、驚くべきチームワークを見せてもらったこと、アイデアに感心させられたこと、たくさんの可能性を感じたイベントでした。ご協力いただいた国立淡路青少年交流の家の皆様、関係者の皆様、参加してくれた子どもたち、ありがとうございました。
イベントの様子は動画でもご覧いただけます。
チャレンジをするということ
ソフトウェア開発企業である私たちが、子ども向けのイベントを企画して実施するのは本当に大変なことでした。子ども向けのカリキュラムの企画や運営、実機がない中での開発、これまで経験したことがないたくさんのことを経験させていただきました。試行錯誤して時間がかかり、多くの方のアドバイスや協力を得て実施することができました。
YAOKIは、民間企業で世界初の月面探査を実現します。前人未到のことにチャレンジすることの大変さ、成し遂げるには挑戦しつづけなければならないこと、そしてチャレンジする環境を自ら切り開いていったダイモンの方々にはたくさんの感銘を受けました。私たちもチャレンジ精神を持ち続けていきたい、と改めて感じます。
「宇宙開発」「月面基地」と聞くと、遠い先の未来のような気がしている方も多いのではないでしょうか。しかし、今回プロジェクトの準備・運営に関わって感じたのは、宇宙産業は「すぐそこにある巨大市場である」ということです。世界で30兆円とも言われる宇宙開発の事業ですが、日本は宇宙の分野に対する予算も人員も規模が小さく、先進国で後れを取っている状況です。これからも、YAOKIを通じて宇宙産業をもっと身近に感じてもらい、宇宙開発の道を志す人々の道を開いていくことに少しでも寄与できればと考えています。
その後
Wi-Fi対応したYAOKIは後日サンシャイン池袋で開催されたイベントでも使用され、今後もイベントや展示などで活躍することが決定しています。
ぜひお近くで開催の際にはお立ち寄りいただき、YAOKIを体験していただければ幸いです!
筆者:松丸恵子
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