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IIoT向けアプリ開発をしてみて感じた課題と希望、生産現場の未来

IIoTとは?

IIoTは「Industrial Internet of Things」の略で、工場や機器や運送などの産業分野向けのIoTを指す言葉です。産業機械や装置、システムがインターネットに繋がることによって生まれるサービスや技術の総称で、次のようなことが期待されています。

  • 生産現場の生産効率の安定化
  • 生産現場の安全性の向上
  • サプライチェーンの最適化

製造業のビジネスモデルは、従来は製品を作って売る製品ベースでしたが、近年ではサービスベースに変革を遂げつつあります。例えば、月額課金で車を利用するカーシェアリングや、入れた空気の分だけ課金されるコンプレッサなど、製品自体の価値ではなく製品を使って体験する「コト」の価値を提供するビジネスモデルに変化しているのです。

背景にはハードウエアの低コスト化やビッグデータの分析、クラウドテクノロジーなどの進化に加えて、消費者の要望の変化やモノのコモディティ化により、モノに付加価値をつける必要が出てきたということが挙げられます。

マイクロソフト社の「Azure IoT Edge」

「Azure IoT Edge」とは、マイクロソフト社が提供するエッジコンピューティング向けのサービスです。

エッジコンピューティングとは、エッジ(デバイスなどのネットワークのユーザ側終端)上の機器でデータ処理をする技術のことで、クラウドでデータ処理をするのではなくデータ生成元であるエッジ上で処理を行います。大量データの処理でもリアルタイム性が高く、分散することでセキュリティリスクが低減され、通信コストも少なく済むという利点があり、近年注目を浴びています。

Azure IoT Edgeは、工場のPCや機器などのいわゆるエッジに、Azure IoT Edgeをセットアップし、Azureの機能を利用したり、端末やデータの一元管理を実現します。

今回のデモアプリは、「Azure IoT Edge」を利用してエッジコンピューティングを実現し、Azureでデータを管理するデモを開発しました。

iiot_001.jpg(デモ開発のアーキテクト)

このデモでは、PLCからデータを収集しているEdgecrossのソフトウェアを活用して、収集されたデータをAzureIoTEdgeで受け取り、クラウドのAzureにデータを送信します。送信されたデータをクラウド上の稼働監視アプリケーション上で表示することで、どこにいてもリアルタイムに工場の状態がわかるようになります。

iiot_002.jpg(展示したデモ画)

IIoTシステム開発の苦悩

製造現場向けのシステム開発にあたっては多くの課題にぶつかりました。まず開発にあたっては、知らないことが多くありました。たとえば、製造現場の機械を制御するPLCと呼ばれる機器、PLCの状態をまとめたHMIと呼ばれる監視モニタ。通信規格の数もかなり多く、四苦八苦しました。

ITシステムの開発では使い慣れたAzureですが、製造現場の知識不足により実際に必要な機能を見極めることができず、予想以上の複雑なモジュールに改修が必要になりました。

iiot_003.jpg(当初想定していた構成)

iiot_004.jpg(実際にやらなくてはいけなかったこと)
出典:Microsoft Docs

今まで開発してきたシステムとの違いを理解し、調べたり慣れるまでが大変だったと思います。

「Azure IoT Edge」のメリット

苦労の連続だった開発ですが、Azure IoT Edgeを利用することで、すべてのモジュールをAzureの機能で実現できたため、それらを組み合わせて実装できたのは非常に便利で、IT企業の得意とするところだと感じました。

また、今回のデモで一押しの機能だったのは、異常検知の機能です。Azureのサービスのひとつであるリアルタイム分析サービス「Stream Analytics」には、デフォルトでAnomalyDetection(異常検知)機能が備わっています。これを利用すれば、異常を検知すると生産現場にアラートを知らせるなどの仕組みをすぐに作ることができます。

iiot_005.jpg出典:Microsoft Docs

このように、Azureが持つ様々な機能をうまく活用できることが「Azure IoT Edge」の非常に大きなメリットだと思います。

IIoTの未来

IIoTは今後、製造業において大幅なコストカットが見込め、新しい価値を生み出すことができる技術です。IIoTが注目されている理由としては、次の3つがあります。

  • 2020年までに世界中でエンドポイントデバイス数が200億を超えると言われている
  • 工場の自動化、データの一元管理、作業効率の向上が期待できる
  • それらが実現されることで50%のコストカットが見込まれている

しかし、このように注目を浴び、市場規模は2020年で2兆円とも言われているものの、取り組みを始めた企業数は全体の7%程度だと言われています。
その大きな要因のひとつに、「知識・スキル不足」が挙げられます。

IIoTにはクラウドやデータ処理などの技術が必要です。しかし、これまで製品を作るための制御系システムを専門にしてきた現場では、それらの技術に精通している技術者は大変少ないのが現状です。そこでクラウドやデータ処理に詳しいベンダーに相談しようとしても、そこを得意とするいわゆるIT企業は、生産現場寄りの技術やノウハウを知りません。

前述のように製造現場への理解不足で様々なハードルにぶつかった開発でしたが、今回実装してみて、多様な通信規格に対応しているゲートウェイや、製造業向けのIoTプラットフォームなど、便利な製品・サービスが登場していることを知りました。また、製造の現場とITが相互に理解しあうことで、産業がさらに発展する可能性を感じました。

ソフトウェアを開発・販売から始まり、幅広くITを担ってきたマイクロソフト社が、製造向けのサービスに注力し始めている今、それらの技術をもっと製造業に普及させて日本の生産現場を押し上げられるのは、私たちのようにシステム開発を主軸にしてきたIT企業なのではないでしょうか。

先進的にIoT技術開発に取り組み、様々な実績とノウハウを持つ我々KDLエンジニアが、切り開いていければと考えています。

監修:デジタルビジネス本部 データインテリジェンスチーム リーダー 本光伸行
筆者:カスタマーサクセスチーム 松丸恵子、広報室 大野陽子