KDL BLOG
水族館施設でIoTを活用した水環境管理の実証実験を行いました。水槽に供給する水を水温センサで計測し、クラウドにデータを蓄積しいつでもWebブラウザで確認できるようなシステムをKDLが開発しています。実験の概要と手法などを現地レポート踏まえてご紹介します。
須磨海浜水族園の水環境管理にIoTを導入する実証実験を発表しましたが、実際のIoT機器の設置現場について解説します。IoTを試してみたい、という企業様にはご参考になるのではないかと思います。
この実証実験は、水族館施設でのIoT活用の可能性を評価する実証実験で、ミズタコの水槽に供給する水を水温センサで計測し、クラウドにためていつでもWebブラウザで確認できるようなシステムをKDLが開発しています。ミズタコは、日本の北の方に分布する大きなタコで、低い水温で生育するため低めの水温を保つ必要があるそうです。
今回は、須磨海浜水族園(以下、スマスイ)の飼育員の方に解説いただき、設置場所の写真撮影をさせていただきました。
水族館のバックヤードに潜入
スマスイまでは、KDLがあるJR三ノ宮駅からJR須磨海浜公園駅で下車して歩いて10分程度。実は、訪問させていただく前日に大阪北部地震が起きたばかりで設備など心配したのですが、地震当日も「通常営業しております」とのこと。すごい!
スマスイに到着しました。
来館者として展示を見に何度も来ていますが、今回は管理事務所の入り口から入ります。入ってすぐのオフィスは普通の企業のようにデスクが並んでいました。監視カメラのモニタがいくつか並んでいました。
事務所の中にお邪魔してご挨拶。「バックヤードを撮影してもいいですか?」と伺うと、特別に許可いただきました。ありがとうございます。
管理事務所から通路を抜けて階段で地下に降りると・・普段みている水族館の水槽とはまったく別世界。配管だらけで工場のようです。
スタスタ歩く飼育員さんに、テンションMAXでキョロキョロしながら着いていく広報担当の私。地下の広い敷地に、配管や備品、設備の管理システムのようなものが設置されていました。
水槽のデータを収集・可視化する方法
案内されたのは、ろ過槽と貯水槽がたくさん並んでいる一角。これが今回検証するミズタコのろ過槽と貯水槽です。水族館の水槽の水は海水を利用しており、食べかすやフンなどで汚れた水槽の水をろ過槽でろ過し、生物に合わせて温度調節して水槽に戻すという循環を繰り返しているそうです。
真ん中がパーテーションで区切られており、奥のろ過槽でプランクトンや砂によってろ過された水が、手前の貯水槽に貯まります。ろ過槽に入る前の水温が自動的に計測され、ろ過された水を貯水槽からポンプで水槽に戻すときに熱媒体に通して温度調節されているとのこと。
今回の実験では、ろ過槽できれいにして戻す前の水を、センサーで計測してクラウドに送信します。槽の中央から水に入っているケーブルが今回設置したシステムの一部。ケーブルの先に、センサーが設置されています。
ケーブルは、天井に設置した装置につながっています。装置内には、室内の温湿度、気圧を計測するセンサーも設置されています。センサーデバイスは、日本ミクニヤ様に開発していただきました。
遠隔からデータを確認
センシングしたデータはクラウドに送信してデータを蓄積・可視化できるようになっています。データはほぼリアルタイムに反映され、ブラウザで確認できます。スマホでも見られるのでどこにいても状況がわかります。
異常時にも遠隔から原因のあたりをつけられるなどの利点があるほか、AIなどのデータ分析で意思決定を支援したり、水温だけではなく水質などにも応用するなどでもっと様々なことができるのではないか?ということから、実証実験するに至っています。
「ベテランの飼育員が少なくなっているのですが、経験に頼らなくてもデータである程度対応できるようになるなら、人材不足の解決にもつながると思います」と飼育員さん。
ちなみに、これはろ過後の水槽に戻す前に水温を調整する部分。
散々ひっぱって質問した挙げ句、「この水が送られている水槽のミズタコが見たいです」という私のオーダーに、飼育員さんが快く案内してくださいました。
水が供給されている水槽
スタッフ用の通路を歩いて、「スタッフ以外立ち入り禁止」のような扉から展示エリアに出ます。スマスイ展示エリアのいつもの景色がありました。
水環境センサで計っている水を供給されているミズダコ。まだ生まれて1年ほどとのこと。落ち着いてご機嫌に見えます。
貯水槽からポンプでこの水槽に水が供給されています。貯水槽の水は下から吹き上げるそうです。
ミズタコは水温が高めだとたくさん食べて活発になり、大きくなるのも早いそうですが、寿命が短くなるそうです。20度を超えたら死んでしまうとのこと。低めの水温でゆっくり育てるほうが長生きするそうです。
「水温が低いので、湿度が高いと水槽に結露が着いてしまいます」と言いながら、飼育員さんが結露ワイパーでガラスをひと拭きしてくださいました。こういうことも、ITで改善できることがあるかもしれません。
このミズタコは体重10キロくらいだそうです。3年ほどすると30~50キロくらいになるそうです。ミズタコの大きさの最大は、過去最高270kg超、というのをWikipediaで読んでびっくり。
飼育員さん「大きいタコになると、サメを襲うんですよ」
広報「!!!」
今後の展開
設置したシステムがちゃんと動いていることを確認できました。通信環境が悪い地下でも問題なく動作できていることも一安心です。地震で機器が破損していないかなども心配しましたが、大丈夫なようです。地震発生時に異常を検知できるという視点も必要だと感じました。
今後は、機器や取得したデータの運用で課題やアイデアを抽出し、改善しながら実験を続けてくことを考えています。データを集めることで見えてくるものもきっとあるはず。
おまけ:水族館は地球の自然環境に役立っている
水族館の地下にも、展示されていない生き物たちがたくさんいました。
企画展を終えて一時保管されている熱帯魚。
タツノオトシゴの繁殖も行われていました。
タツノオトシゴなどの餌となる、アルテミアと呼ばれるプランクトンの一種も孵化させていました。
水族館は展示だけではなく、繁殖や研究などを通じて地球環境の保全に寄与する機能を持っていることを改めて知った日でした。
「大水槽も見ますか?餌入れたばかりでちょっと濁ってますが・・」とのことで、サメやエイが泳ぐ大きな水槽も見せていただきました。
閉館後のちょっと暗い大水槽、魚たちは開館時に見るよりも少し休息モードのように見えました。
ご対応いただきましたスマスイの皆様、本当にありがとうございました。
2019.5.30追記 その後
実証実験が進むにつれて移動式のセンサとなりました。詳細は以下をご覧ください。
筆者:松丸恵子
広報室