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IoTで水族館の漏水事故を予防!異分野の三社による共同研究

水族館など水族を飼育する施設では、漏水に関する話題については事欠かず、ちょっとした漏れから大きな漏水まで入れると「一度や二度ならぬ」という経験をされているようです。
今回は、神戸で話題のデジタルアートや舞台美術が融合した、次世代水族館 「átoa(アトア) 」において、IoTの仕組みで漏水を予防するための共同研究の現場をご紹介します。

エンゲージメントリードの松丸です。KDLでは、株式会社アクアメント様が運営する、劇場型アクアリウム「átoa(アトア)」(神戸市中央区新港町)において、漏水予防に関する共同研究をさせていただいています。

共同研究の背景

今回、漏水予防の共同研究をすることとなったきっかけは、帝国通信工業様の静電容量式水位センサとの出会いでした。薄いシート型のフィルムセンサを液体が入った容器の外側に貼るもので、液体には直接接触させることなく、水位を検知できるものです。

水族館を運営されているアクアメント様と以前よりお付き合いさせていただいている経験から、「これはもしかして、水族館の漏水対策にも使えるのではないだろうか?」と思い付き、両社にご提案を持ちかけました。こうして、アクアメント様、帝国通信工業様、KDLによる漏水予防の共同研究が始まりました。

3社による現地視察の様子の写真
3社による現地視察の様子

水族館における漏水とは?

水族館で漏水、といってもピンと来ない方の方が多いのではないでしょうか。原因となりうることは、いくつかあるそうです。

ポンプの詰まりや電源の不備

水族館の水槽は水をきれいにする「ろ過水槽」とパイプでつながっており、循環させることで水質を保っているものがあります。例えばろ過水槽から展示水槽に水は送られてくるけど、ろ過水槽に送るパイプ部分がつまっていて、水が送られない、という状態だとどうでしょう。展示水槽の水はどんどん増えていきます。また、ろ過水槽から展示水槽に水を送り出すポンプの電源が、何らかの原因で止まってしまったらどうでしょうか?ろ過水槽があふれ出します。

程度や状況によっては展示スペースに水が漏れてしまい、来場者に危険が及ぶという事態も考えられます。

ヒューマンエラー

ヒューマンエラーによる事故も少なくありません。例えば、水族館では定期的に水槽を掃除しますが、その際には水槽の1/3ほどの水を抜き、掃除をしたあとに新鮮な水を補充するのだとか。大量の水を補充するには時間がかかります。水族館の裏方は忙しく、水槽に大量の水が溜まるのを待つ間にも、生物の健康チェック、調餌(餌の準備)、給餌(餌やり)、イベントや展示の企画、時折起こる想定外の出来事に大忙し。ハッと気づけば、「しまった!栓締めるの忘れとる!」なんてことも、ときどきあるのだそうです。

átoaのバックヤード

今回は、átoaの水槽に水位を検知するためのセンサを取り付ける現場を見せていただきました。

KDLのエンゲージメントリードの中西さんとátoaに到着し、裏口からスタッフエリアへ。初めての訪問で、いきなりスタッフオンリーのエリアから入るとは・・。以前スマスイ様の水環境監視の実証実験でIoTセンサを設置した模様を取材させていただいた際にもご紹介しましたが、水族を飼育する施設の裏側は無数の配管が張り巡らされており、水流やポンプ、タンクの状態などはシステムで統合管理されています。まるで大きな工場のような作りですね。

atoaのバックヤードの写真
無数の配管

バックヤードには、水を管理する機械、餌、掃除道具などの飼育用具がたくさん置いてあります。
また、展示されている生物以外も飼育されており、それらの水槽はバックヤードに設置されているため、たくさんの水槽がありました。

センサの取り付け

センサは、冒頭でご紹介した水位センサを改良した新商品漏水センサ「No-Blue」を使い、通信機器にはSORACOM LTE-M Button Plusを組み合わせました。この組み合わせにより、IoTセンサデバイスのスピード開発と、現場への速やかな設置を実現しています。Wi-Fiなどの機器の設定も不要で、センサの取り外しも現場スタッフのみで可能なため、手軽さと現場での運用コストを圧縮できます。

今回は、現場スタッフがセンサを取り付けているところをご紹介しましょう。こちらは、コクテンサンゴトラザメの水槽です。

サンゴトラザメの水槽の写真
コクテンサンゴトラザメの水槽

そして取り付けたのは下にある、ろ過水槽。ろ過水槽とは、生物がいる水槽の水をきれいにするための水槽です。生物の水槽からこのろ過水槽に水が流れてきて、このろ過水槽内でフィルターやバクテリアなどの力で水をきれいにして、ポンプで生物の水槽に戻しています。
写真の黒いフィルム式のセンサ「No-Blue」まで水位が上がると、異常水位であると判断し、LINEに通知がくるようになっています。

ろ過水槽の写真
ろ過水槽に設置した水位センサ

センサの反応はこちらのデバイスに信号として送られます。

センサーの信号を送受信するデバイスの写真
センサの信号をクラウドへ送信するデバイス

ここからセンサのデータをSORACOM Harvestに保存し、その数値の閾値により、SORACOM LagoonからLINEへ通知を送る、という仕組みです。うーん。SORACOM便利すぎる。

atoa007.png
LINEの通知画面

受信したセンサデータはダッシュボードで可視化しており、現場スタッフが持ち歩いているタブレットや、スマートフォン、PCなどでどこでもリアルタイムに確認できます。

データを受信できているかをデータ蓄積のダッシュボードでチェック中。

画面を確認している様子
普段利用しているタブレットで受信データを確認中

今回作成したダッシュボードはこんな感じです。水槽ごとに取得したデータを確認できます。

ダッシュボードのイメージ
受信データを可視化しているダッシュボード

今回は複数の水槽に取り付けて、運用します。こちらは壁埋め込み式水槽の裏側。ディスカスというアマゾン川原産の淡水魚の水槽です。

壁組み込み式水槽への取り付けの様子
壁埋め込み式水槽への取り付けの様子

漏水の予防とひとことでいっても、海水の場合は塩の結晶がセンサに付着しても問題ないか、水族館での業務に影響がないか、誤検知の要因となるケースがあるかどうか等、現場では様々な想定外を考慮する必要があります。どのようなケースがあるかを調べ、検知を精度の高いものにしつつ、漏水予防に効果が期待できることを検証することが目標です。

小型で後付けできることの重要性

ちなみに、このようにセンサデバイス一式が小型で後からも自由に取り付けできるという点は、大変重要です。なぜなら、展示の入れ替えや百貨店などの商業施設での特別展示などで水槽を移動させるためです。必要/可能な場所に、柔軟に設置できることが使い勝手に大きく影響するそうです。
高度なセンサ付きの大型水槽だとお値段も張りそうですが、これなら安価で必要な分だけを無駄なく取り入れることができますね。

さて、検証の結果やいかに。また経過などご紹介できればと思います。

中西

担当:中西波瑠

エンゲージメントリード

松丸

取材・執筆:松丸恵子

広報室