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物語で見るDX vol.1 “フラッシュ・ボーイズ”~高頻度取引(HFT)と、何でもやるアニマルスピリッツ~

こんにちは。神戸デジタル・ラボ エンゲージメントリードの中川です。私は物語が好きで、小説も読みますし映画やドラマもよく見ています。

DXはいまや生活のあらゆるところに浸透しており、現代の物語では、過去にはなかったデジタルで実現された物事が多く扱われている、と感じる今日このごろです。当コラムでは、私自身が思う「DXが面白く感じられる物語」をご紹介します。

本日ご紹介するのは、小説「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」です。

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経済小説家 マイケル・ルイス

作者のマイケル・ルイス氏は、投資銀行で勤務経験のある経済小説家です。

彼の主な作品には、徹底したデータ活用で野球界の常識を変えた「マネー・ボール」(ブラッド・ピット主演で映画にもなりました)や、2008年のサブプライムローン破綻に端を発する経済危機を見抜いた男たちを描いた「世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち」(こちらも映画化されました)があります。「フラッシュ・ボーイズ」も映画化されていますが、私はまだ見ていないので早々に見たいと思っています。

日本で経済小説といいますと、「ハゲタカ」の真山仁さんや、「半沢直樹」の池井戸潤さんを思い出しますが、これらはフィクションです。マイケル・ルイス氏の小説はその多くがノンフィクションでありつつ読み物として面白いというのが特徴で、私は好んで読んでいます(多分に面白さのための誇張や偏見はあるのでしょうが)。

「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」が描くスケールの大きさ

 作中に登場するデジタルを用いた株取引の仕組みで、High Frequency Trading(HFT:高頻度取引)というものがあります。株式の売買を、人が指示して売った・買ったとやるのではなく、コンピューターがとても早いスピードで、それも毎分とか毎秒でなく、1秒に何百万、何千万、何億という回数で取引注文を出すものです。

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この本で語られるミステリーは、システム上見えていた売買注文に対して取引しようとすると、その注文が消えてしまう、なぜなのか、というところに疑問を持った登場人物がその原因を突き詰めていくというものです。きわめて不公正な事実が判明していくところにこの小説の面白さがあります。

そういった面白さはもちろん、私が驚いたのはそのスケールの大きさです。超高速な取引速度を実現するために、データセンターのあるカンザスから、証券取引所のあるニューヨークまで1600kmの光ファイバーケーブルを敷設、それもできるだけ”まっすぐに”(その方が、曲がっているより速度が早いからという理由で!)山を堀り、谷を埋め工事を行うところです。利用者は、その高速なネットワークを使うことで、競争相手よりもさらに早く取引を行うことができるのです。

私はなんともそのスケールの大きさに驚いて、そこまでやるアメリカってすごいと思いました(日本は規制緩和が遅いとよく言われますが、規制緩和の結果、ほぼ犯罪行為に近いことが合法的に行われているというのも見逃せないポイントです)。

DXは強力な搾取の仕組みにもなる

 これはDXなのか?の観点でいうと、これまでの業態を破壊し大きな変革をもたらしたデジタル技術ですので、間違いなくDXと言えると思います。

ただ、DXによって誰にどういう良いことがあったか?というと、非常に限られた関係者のみメリットがある仕組みです。DXはそのように用いると強力な搾取の仕組みとなるという点も示唆してくれています。近年、いくつかの巨大プラットフォーマーがその独占的地位を批判されていますが、そのようなわかりやすい形であればまだましで、当作品で語られているような見えにくい仕組み(地中ケーブルなど)で行われていることこそ、恐ろしいものなのではないかと思いました。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

執筆:中川 崇

エンゲージメントリード Account Sales