KDL BLOG

わたし達の未来をつくるアイデアソン ・ハッカソン発表会レポート

8月に開催された「わたし達の未来をつくるアイデアソン ・ハッカソン~ 世の中を変える商品開発【視覚障害持つ方編】~」で、新技術活用推進班の金谷が「IoT を用いてバスの乗降をサポートするシステム」の試作品を制作し、アイデア賞を受賞したことをブログでご紹介しました。このハッカソンで制作された、金谷の試作品を含めた5作品に対し、実証実験協力施設を募集するための発表会が12月14日に開催されました。

広報も取材に行ってまいりましたのでレポートいたします!

「わたし達の未来をつくるアイデアソン ・ハッカソン」はNPO 法人アイ・コラボレーション神戸が主催したもので、障害者が「何もあきらめなくよい世の中」をつくることを目的して商品開発行ったものです。各開発チームには、製品利用の当事者とされる視覚障害をお持ちの方が参加され、提案いただきながら一緒に制作されたとのことです。

各者発表

開催の挨拶後、さっそく各者の試作品の発表がありました。

音声でかんたんメモ登録「メモメール」

1番目は、クラスメソッド様中心に開発された、視覚障害者がAIスピーカーをつかってメモをとる「メモメール」。音声でメモができて、読み上げてくれます。視覚障害をお持ちの当事者として発案された京都福祉情報ネットワーク 代表の園様は、ご自宅に16台のスマートスピーカーを所持して使いこなしておられるとか。すごい。

「メモメール」の発表1

パッとメモを取りたい・・・そんなときに視覚障害者の方はすぐにメモできずに忘れてしまったり。そんな課題を解決するために開発されました。

スピーカーに向かって「メモメールを立ち上げて」でメモメールアプリが起動し、「xxxxってメモして」というとクラウドにメモがたまります。「メモを教えて」というとメモが読み上げられます。メモは登録したメールにも飛ばすことができるということで、その場で実演されていました。

「メモメール」の発表2

視覚障害者に限らず、例えば寝る前の布団でとか、お風呂でとか、赤ちゃんを抱っこしているときとか、パッと思いついたことやいい言葉をメモしたいシーンがありますよね。インプットとアウトプットが音声利用できる、伝言メモとしても使えそう。

このアプリはなんと、既にAmazon Alexaのスキルとして公開しているということです。

スクリーンリーダフレンドリーなTwitter検索

2つ目の発表は、スクリーンリーダで読みやすいTwitter検索システム。

アクセシビリティを大切にしたウェブサイトを制作する、時代工房様、NVDA日本語チーム代表の西本様による試作品でです。広島出身の西本様が今年の豪雨による災害を課題として発案され、視覚障害をお持ちの当事者である小寺様にも案をいただきながら開発されたそうです。視覚障害の方で、インターネットを使いこなして情報を得ている方はとても多いそうです。その手法のひとつが、スクリーンリーダー。UIを読み上げて音声で情報を得られるというものです。

スクリーンリーダフレンドリーなTwitter検索の発表1

まず、「音だけで情報を得る場合の課題は、情報が多すぎるということ」という言葉に、衝撃を受けました。視覚的に見えない分情報が少ないのではなく、情報のフィルタリングが難しいのです。

即時性が高く、イベント時だけではなく災害などの有事の際の情報発信、情報収集にも不可欠となったTwitter。しかし、タイムラインを普通にスクリーンリーダーで読むと、ひとつの投稿の中にも、投稿者のアカウントへのリンク、投稿へのリンク、リツイートや返信、コピー、埋め込み、削除、などなど様々なリンクなどの情報があり、それをひとつずつ読み上げてしまい煩雑になります。

この課題に対し、有事の際には、スクリーンリーダーで必要な情報だけをピンポイントに取得できるようなシステムを試作されていました。検索ワードで「地震」と入れて地域を絞り込んで検索すると、必要な情報だけを読み上げられるようにカスタマイズしたUIで表示されます。

スクリーンリーダフレンドリーなTwitter検索の発表2

音声のみで、必要な情報だけを取得することの難しさを感じると共に、そのような面を意識したシステム開発を意識していかなくてはいけないと感じました。

ただ、Twitter社はショートカットキーを拡充するなどアクセシビリティに力を入れており、また、その他Twitterクライアントソフトなどの存在により、視覚障害者のTwitter環境は改善されてきているとのこと。

時代工房様は、「メールの登場が、視覚障害者のプライバシー問題に重大な変化をもたらしたことに衝撃を受けて、今の事業を立ち上げた」とのこと。ITにはいろんな可能性が秘められています。

バスの乗降サポートするシステム

3つ目はKDLの新技術活用推進班の金谷。製品利用の当事者として、広島市視覚障害者情報支援センターの志摩様、栗川様から案をいただいて一緒に開発させていただきました。

バスの乗降サポートするシステムの発表1

ハッカソン当初はバス降車ボタンについたIoT方式のボタンを、音声で物理的に押すというシステムを開発していましたが、あれからバス会社などに試作品を持ち込んで意見をもらったようです。

バス業界でも視覚障害に対するサポートは課題なのだそうで、乗り降り以外にも、例えばダイヤ改正を伝えるなどもっとサポートを強化しなくてはならない面があるとのこと。金谷の試作品に対しては好感触でしたが、バスでスマホに向かって声を出すというマナーに関わる部分が、バスにとっても利用者にとってもハードルがあるのではという意見があったということでした。

バスの乗降サポートするシステム発表2

そこで、今後はアマゾンのサイトのバーチャルダッシュボタンのようにスマホの画面上に降車ボタンを実装するという方向で検討している、と締めくくりました。バス会社の皆様、ぜひご意見をいただき、実証実験をご検討いただければ幸いです!

駅構内等を音声で誘導する「 AR音声案内システム 」

4つ目の発表は、ARマーカーをスマホで読み込むと、音声案内が出力される「AR音声案内システム」。音響機器メーカーのTOA様が発表されていました。視覚障害をお持ちの株式会社ラビット代表の荒川様とともに開発されたとのことです。視覚障害者の方は、現在地がわかってもどっちに行けば良いのか、がわからずに苦労することが多々あるそうです。これがあれば、カメラをかざすだけで、今どこにいて、向かっている方向に何があるのかを知ることができます。

AR音声案内システムの発表

写真の足元にあるARマーカーを読み込むと、「あと○歩右側にトイレがあります」「○番ホーム、xx方面です」などを音声が出力されます。例えば、入るときは「いらっしゃいませ」、出るときは「ありがとうございました」のように読み込んだ方向によって別々の情報を紐付けることができるという点もアイデアですね。QRコードよりも単純なマーカーなので遠くからでも認識できるとのことでした。

紙で貼るだけだから設置が簡単で、急を要する避難所や短期のイベントでも使えるという点も非常に有効ですね。Googleスプレッドシートをつかってマーカーと音声ファイルを紐付けるため、作るのも簡単だそうです。主催のアイ・コラボレーション神戸様からは、実際の実証実験に向けた具体的な手順のご説明がありました。

AR音声案内システムの実証実験

視覚障害者の外出・移動をサポートする「靴センシング」

最後の発表は、靴メーカーのアシックス様より、視覚障害者の外出・移動をサポートする、センサがついた靴「靴センシング」。視覚障害当事者である、NEXT VISION和田様に案をいただき、システムデザインラボ の杉本様とともに開発されたそうです。GPSや磁気センサを用いて、安全な外出をサポートするというものです。

wada_hackathon.png

視覚障害者の外出というと点字ブロックを思い浮かべる方も多いと思いますが、どこでも普及しているわけではなかったり、最近の靴はクッション性を追求するあまり、足裏の触感覚では点字の判別が難しい場合があったりするそうです。

特に視覚障害者は、交差点や駅のホームなどでの事故が多いそうで、発表では、横断歩道や駅のホームの安全地帯からはみ出すと、設置されている磁石に磁気センサが検知して靴に振動が伝わるという想定の試作品を実演されていました。

「靴センシング」発表2

また、GPSに関しては、衛星測位システム「みちびき」のによる高精度なルートガイドや、LPWAを用いた広範囲のカバーなど、これまでの研究と活用の可能性についてご紹介されました。

ちなみに、道にあるいろいろなモノは、視覚障害者にとって障害物になると思われがちですが、実は視覚障害者は手や杖でモノに触って進むことで自分の位置や周囲との位置関係を把握するので、何もないところを歩行するのは非常に困難なのだそうです。確かに・・・健常者も真っ暗な所だと、何かに伝って歩きますものね。

観覧、意見交換

発表のあとは、質疑応答と、参加者が自由に試作品を見て意見交換できる時間が設けられました。

観覧、意見交換写真

金谷のバス乗降システムも多くの方に興味をお持ちいただいたようです。広報もそれぞれの試作品を見て回らせていただきました。いろんな職種・立場が違う方で意見交換すると、たくさんの気づきが得られます。アウトプットがもたらすものは大きいですね。

まとめ

健常者には思いもよらないような何気ないちょっとしたことに、障害者が苦労したり危険を伴ったりすることを改めて知りました。一方で、技術の進歩で便利な世の中を実現している現代社会では、障害を持つ方向けの技術革新も進んでいることを知りました。

IT技術を新しい視点で見てみるとたくさんの発見があります。様々な技術と視点が融合することで、障害を持つ方のボーダーレス社会を実現していける、そんな可能性を感じた発表会でした。

筆者:松丸恵子

広報室