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安全・安心な建設現場づくりの仕組みと効果 ~アザスは何を変えるのか【改善編】~
神戸デジタル・ラボでは、JGC Digital 株式会社が提供する、建設現場向けのコミュニケーション促進アプリ「アザス」の開発、運用を支援しています。前編の【課題編】では、アザス事業の責任者、倉田浩二郎さんの講演より、アザス開発の背景や課題についてご紹介しました。後編では、アザスのアプローチと、現場改善の仕組みや導入現場からの声、効果をご紹介します。
前編:安全・安心な建設現場づくりの仕組みと効果 ~アザスは何を変えるのか【課題編】~

倉田 浩二郎 さん
JGC Digital株式会社 アザス事業 プログラムマネージャー
2011年、日揮株式会社に入社。LNG受入基地の設計業務に従事後、2016年からデジタル系の新規事業開発に関わる。プラントの運転データ分析、IT事業会社の立ち上げ、日揮グループDX計画「IT Grand Plan 2030」の立案・遂行などを行う。現在はアザス事業の責任者。
アザスのアプローチ
アザスの前身
アザスの前身となった活動は、中東の建設現場での取り組みでした。
大勢の作業員が東南アジアから出稼ぎに来られ、一日に3万人が働く大規模な現場です。統計上では、3万人働く現場の場合では工事期間中に20名が亡くなるという計算になるそうです。
「統計上はそうだとしても、全員無事で帰ってほしい。どうしたらその死者ゼロにできるか。そう考えてたどり着いたのが、心理面へのアプローチでした。」(倉田さん)
そこから考えられたのが、行動経済学の分野で提唱されている「ナッジ理論」の活用です。ナッジ理論とは、人々の行動を強制せずに、自然に望ましい方向へ導く方法のことです。

例えば、公共のトイレで「いつも綺麗にお使いいただき、ありがとうございます」という張り紙を見たことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか。「トイレを汚さないでください」という張り紙だと注意をされているように感じますが、綺麗に使っている前提で感謝されることで、その期待に応えようという心理が働きます。
このナッジ理論に基づいて中東の現場で取り組んだのが、安全行動に従事した場合にチケットを渡すという活動。
日揮ホールディングスの建設現場には、例えば砂漠のど真ん中のように光ファイバーが通っていない(通信環境が整っていない)場所もあります。その場合、工事は光ファイバーを引くことから始まるそうです(驚)。
中東の現場では、祖国と電話できる権利や、YouTubeが見られる権利などをチケットで渡すことで、安全行動を選択するよう働きかけをした結果、死者がゼロになったのだそうです。
建設現場の変化
日本で行った実証実験は、現場の作業員のヘルメットにQRコードを貼り付け、現場監督が、作業員のよい行動に対してQRコードを読み込んでポイントを付与するというものでした。

従来の建設現場では、作業員ができていないことに対して監督が怒ってばかり、というエピソードを前編でご紹介しました。
実証実験の方法であれば、QRコードを読み取るときには、よい行動を褒める声掛けをすることになります。例えば、「監督の指摘に対してすぐ修正できた」という行動に対してポイントを付与する場合、QRコードを読み取る際は、「●●をすぐに直した行動が素晴らしかった。これからも●●に気を付けてほしい」というような声掛けになります。作業者視点では、従来「●●に気を付けるように」という指摘や注意だった監督の言葉が、同じ内容でもアドバイスに聞こえてくるのです。
そして、そのような出来事が続くうちに、監督と作業員の関係性が、「敵対」から「一緒に働く仲間」に変化していったそうです。
最終的には利用を延長し、140万時間無事故無災害を達成しました。

伝え方が違えば受け取り方も異なる、ということは様々な場面で想像できますが、「よい行動に対してQRを読み取る」という仕組みによって、伝え方が自然に変わる点が印象的です。

また、実際に導入いただいている現場では、こんな声があるのだとか。
「今導入していただいている建設現場では1日1回安全パトロールを実施していて、そのときにQRコードを読み取ってポイントを渡しています。これまでは、安全パトロールでは作業員は指摘ばかりされるので、自分のところに来ないでほしいという気持ちがあったそうですが、アザスを導入してからは、『なぜ来てくれないのか』と言われるようになったそうです。そのため安全パトロールがしやすくなった、という声をいただいています。」(倉田さん)
景品交換もモチベーションに
ポイントの交換と聞くと、ついオンラインのポイントと交換を想像してしまうのが私たちデジタルを生業とする人の発想ですが、アザスを導入した現場では、会話が生まれるようにあえて手渡しにしています。
「建設現場ではたくさんの企業の方が短期で入れ替わるため、名前も知らない人同士で仕事をします。つまり、組織の「成功の循環」モデル(※)で必要となる、「関係の質」がもともとない、という状態から始まります。アザスを導入して会話ができれば、「声を掛けたことがある」という関係が築けます。関係の質が改善されれば、最終的に「結果の質」が改善する、という仕組みを目指しています。」(倉田さん)


もうひとつ興味深かったのは、アザスを導入されているENEOS様での景品のお話。ENEOS様の景品では、非売品のエネゴリくんグッズがとても人気だったそうです。作業員の方が家に持ち帰った際に家族が喜んでくれたり、ENEOSの仕事をしているということを家族に認識してもらうことができ、とても喜ばれたのだとか。仕事を誇りに思えるという波及効果にも発展しています。
ダッシュボードから見える傾向
現場の管理者は、誰から誰にポイントが付与されているかをダッシュボードで確認できます。

導入されている現場のデータを分析すると、多くの監督からポイントをもらっている方のほうが指示の浸透が早かったり、やりとりが活発な現場ほど作業員同士もお互いに見習ったりする傾向があるそうです。「関係の質」の向上が、よい循環につながっていることがわかりました。
今後の展望
アザスでは、今後もバージョンアップが予定されています。
現在進めているのは、現場ごとに作成している作業員のアカウントを、その人の個人アカウントとして運用し、現場を切り替えて利用いただく機能です。そうすることで、個人の作業の履歴や表彰歴が保存され、求人と紐づけるなど、様々な価値が生み出せます。
また、将来は外国人労働者の安全の推進も視野に入れています。近年増加している外国人労働者は、日本人に比べて現場での死傷者がなんと2倍程度とのこと。要因となる、「安全に対する意識の違い」や「言葉の壁」へのアプローチを検討されています。
まとめ
ここでご紹介した内容のほかにも、安全な現場環境の整備や安全文化づくりのための様々な仕組みや理論が紹介されました。講演を聞いて私が感じたのは、倉田さんを始めとするJGC Digitalや日揮ホールディングスの方々の、「現場で働く全員が無事に帰ってほしい」という強い想いです。工期を守ること、効率を上げることはもちろんですが、現場で働く人々に敬意を払い、気持ちよく働いていただける環境づくりに取り組まれていることが印象的でした。
アザスはこれからも様々な試行錯誤を重ねて、どんどんバージョンアップしていく予定です。建設現場を運営する皆様は、ぜひご注目いただければと思います!
アザス開発PMからの声
アザス開発当初から、倉田さんと共にチーム全体で「どうすれば現場のコミュニケーション促進にアプリが貢献できるか?」を議論し、アプリ開発に取り組んでいます。
アザスのリリースから今まで、現場からの率直な声を頼りに、毎月機能リリースを続けて来られたのは、JGCDの皆様と開発メンバーのお陰です。当社で開発を担当するエンジニアも、導入現場で現場の生の声を聞くために、順番に現地を訪問させていただきました。

サービス向上に向けては、提供側だけではなく導入先のお客様にも多くのご協力をいただき、本当に感謝しています。ユーザー会にも参加させていただきましたが、ご利用いただいた現場の皆様からも「もっと楽しみたい!」という声をたくさんいただいています。

現場で働く皆さんの安全と笑顔に貢献できるように、これからもチーム一丸となって取り組んでいきたいと思います。

アザス開発PM:飯塚 友哉
RevOps
Proposal Center of Excellence

筆者:松丸恵子
RevOps
Customer Experience


